寄稿レポート要約
<要約>
米国経済の足下の特徴である「K字型経済」と表現される高所得層と低所得層の経済格差拡大に伴い、Low Cost Carrier、Ultra Low Cost Carrier(以下、LCC、ULCC)がターゲットとする顧客の航空旅客サービスに対する支出が低下している。かかるなか、国際線・プレミアムクラスで高い収益率を誇るフルサービスキャリアが内部補助的に国内線エコノミークラスをLCC・ULCCに対抗できるような価格で提供し、顧客をLCCから奪っている。世界のLCCの模範とされたサウスウエスト航空も、特徴の一つであったフリーシーティング制度を廃止し、座席割り当て制を導入する等、あらたな動きが見られる。サービスの質やロイヤリティプログラムが充実したフルサービスキャリアは、運賃・手数料の増額を負担できるプレミアム層を取り込むことに成功している。LCC側は、パイロット、グランドスタッフにみられるコロナ後の人手不足と賃金上昇、LCC各社の供給過剰(過当競争)への対応に課題を残している。
米国の航空業界は、事業環境の変化にたびたび直面し、対応をしてきた歴史がある。足元では、収益性、高級志向、燃料高騰への対応が課題である。2000年代からの数度の統合を経て、大手フルサービスキャリアは3社に収束し、特に上位2社の経営基盤は堅固になっている。対照的に、過去、高い成長を遂げてきたLCCが現環境下では苦戦し、ビジネスモデルの変革を余儀なくされている。今後も、航空業界の参加者の顔ぶれに変化、再編や淘汰は続くであろうが、米国航空業界の進化を求めるダイナミズムと広大な国土と人口を背景とした航空需要に今後も変わりはないと思われる。
米国に比して、我が国は、人口は約35%、国土が狭い(面積4%)、新幹線や高速道路網がめぐらされ、移動距離は短いといった差異があり、そもそも背景、事業環境を同列にみることは難しいが、類似の事象も観察される。現在のわが国の航空業界をみると、①インフレと新幹線等との競争で、国内線の収支は大手・LCC各社とも厳しい、②全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)といった国内フルサービスキャリア(FSC)は空席を埋めるため、運賃を下げる傾向があり、FSCとLCCの価格差が縮小、③LCC各社はインフレ下でコストが上昇し、コストを抑制して稼ぐビジネスモデルの難易度は大きく上昇といわれている。特に、LCCは、空港コストの高さ、国内線需要の成熟の中で価格競争での訴求力を失いつつある。米国からの示唆として、成長よりも収益性・効率性の重視、対象顧客と提供価値の明確化(例えば、LCCであればニッチ市場への特化、チャーター便や季節運航など)、業界内での統合による規律・秩序の回復があげられよう。